本日発売の『サイゾー』5月号で「地下アイドルグループ”連続解散”に見る『アイドルの限界』」という特集の取材を受けました。特集では姫乃たまさんの「アイドルの一生」をテーマに魅せるグラビアと、綿密取材を重ねたテキスト共にたっぷり10ページ。詳しくは雑誌を読んでいただければ、ですが、最近の乃木坂・欅坂の勢いに対して、この1年くらい中堅~地下&ド地下アイドルグループの相次ぐ解散や脱退が目立ちます。普段からアイドルチェックしてない人でも、ツイッターで身近な人がワーキャー言ってたり、まとめサイトで異常事態ぽい卒業話を見かけたりくらいはあるんじゃないですかね。その辺を匿名関係者のコメントを交えてまとめられてます。姫乃さんに加えて里咲りささんや岡島紳士さんらもコメントされてるのでアイドル界の現状に興味がある人はぜひ!
- 作者: サイゾー編集部
- 出版社/メーカー: サイゾー
- 発売日: 2017/04/18
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取材前に受けた話では、アイドルの解散卒業増加の理由には「ビジネス面」「人間関係面」の問題があるのでは、という話でした。でも、そのふたつって「アイドル個人のモチベーション」が高ければ、それなりに乗り越えられると思うのです(程度はあります)(モチベーションでどうにもならない事務所や人間関係もあります)(いやほんと)。ただ、2015~2016年くらいってたしかにアイドル個人のモチベーションが落ちてくるタイミングではあったのかな、とちらほら思うところではあります。
ということで「2016年、なぜアイドルのモチベーションは低下したのか」ということについて取材前にしっかり考えてみるか…といろいろまとめてみたりしたものの、実際の誌面コメントには使われたり使われなかったり、なので、こちらで残しておきたいと思います。
アイドルのモチベーションは3年説
年ごろのかわいい女の子たちが、遊ぶ時間や彼氏作るのを断念してまでもやるのがアイドル稼業。それに賭ける「やる気」って何年くらい続くと思いますか?なんとなく自分は「3年」なのかなあ、とイメージしてまして。
1年目は初めての世界で戸惑う中で面白い部分もつかめてくる。2年目は少し周囲も見えてきて冷静に楽しめてくる反面、業界内での自分の立ち位置が見えてくる。ここで更にやる気出る子もいれば、先が見えなくなる子、両方いると思います。そして後者は3年目でスロウダウンして卒業発表…という流れ。前者も4年目5年目の明るい姿が見えるのなら続ける決意もあるでしょう。でも見えなければ? そんな区切りが「3年」なんじゃないかと。
アイドル以外に「青春時代、自由を捨ててまでやるもの」の代表格として体育会系の部活てのがあります。でも中学3年間みっちり部活やった結果、高校で帰宅部って人多いですよね。そういうのを見ても、やっぱ若い時の自由を捨てて何かに打ち込むのって3年が限界なのかな、と思うのです。(と思ってたら同誌で姫乃さんも「3年で引退」説を唱えてらっしゃいました)
で、そのモチベーションを途切れさせないのが、運営のお仕事なわけですよね。新曲やワンマンライブ、メディア出演などで女の子の気持ちを一定の高さに保たせる。これはもう女の子も機械じゃないので、油させば調子よくなるとかじゃないのでスタッフの大変さは計り知れません。日々ご苦労様です。
ただ、その2年目、3年目のモチベーションが卒業に向けて下がっていくのではなく、上げていく子ももちろんいます。たとえば自分が原稿担当した『ゼロからでも始められるアイドル運営』(コア新書)の電子書籍版限定の追加章(てのがあるんです!買おう!)で、田家プロデューサーがおっしゃってたのが、デビューから1年7ヶ月で開催したリキッドルームでのファーストワンマンライブ。そこで彼女たちが見た「1000人完売札止め」の光景は、その後のメンバーにとって大きな意味があった、と。
リキッドのステージで彼女たちが感じたのは、自分たちがそこまでやってきた事は正しかったんだなという確信。それと1000人完売までたどり着かせた運営への信頼。ひとことで言えば「モチベ爆上げ」。その後のモ!の快進撃は各自検索のこと。とにかく最初の3年のうちにこういう爆上げ体験があれば、4年5年とやる気が持続する…とも限らないですが、かなりプラスになるのは間違いない。ただこの爆上げ体験は人によって基準が違って、100人満員で感じる子もいれば、1000人で満足しない子もきっといる。なので具体的数値で出せるものではないんですが、そういうライブって客席で見ててもわかりますよね。去年だとsora tob sakanaのwwwワンマンとか「ここから変わるな」感があったし、実際変わりました。
そしてこの「3年」という数字が次の項に大きく関わってきます。
ゼロからでも始められるアイドル運営 楽曲制作からライブ物販まで素人でもできる! (コア新書)
- 作者: 大坪ケムタ,田家大知
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2014年問題
2005年にAKB48が結成され、前田敦子卒業公演を含む東京ドーム3日間興行を行ったのが2012年。ももいろクローバーZは2008年に誕生、そして2012年末の紅白歌合戦出場を機にファンを爆発的に増やしたといいます。それを考えると、東京周辺はもちろん全国的にアイドルファンを増やし、アイドルブームが発生する土壌を作ったのが2012年までのこの2グループのブレイクといえます。
とはいえこの両者はあくまでもメジャー事務所。いくつもの「アイドル運営」ならびに「アイドルグループ」結成の背中を押したグループというと、インディーズから誕生したアイドル筆頭のBiSとでんぱ組.incの存在が大きいのではないでしょうか。そしてこの両者がガンガン成り上がって横浜アリーナ、そして武道館公演を行ったのが2014年。この前後が急速にアイドルグループが増えた年だと思うのです。
ではその前後3年で誕生したグループ数を比較してみましょう、ということをやりたかったけど、ちょっと片手間じゃ無理です…。ただ当時東京でアイドル見にライブハウス行ってた自分としての体感としては、2012年にゆるめるモ!とBELLRING少女ハートが誕生し、翌2013年の合法幼女症候群くらいからロック系アイドルがどんどん増えていった感じはしますね。
この「2014年」に、先の「アイドルモチベ3年説」。そして今年は2017年、まさに2014年から3年目。最もアイドルグループが誕生した時期から2年3年経った結果、解散・卒業するアイドルが多い時期にぶつかってるのかなーという気がするのです。
DDファンの減少
前に書いたこの辺をあらためて整理した感じですが。
個人的な現場感ではこの2年で「地下はDDが激減して各現場6割程度に、ただ坂道ファンが増えたのでアイドルファンの総数は横這か増加」な気が。DD激減の憶測としてはももクロBiSでアイドル見始めた人が広く流れてDDになったのが、最終的な推しを見つけそこ以外行かなくなったのかなと。
— 大坪ケムタ (@kemta) 2017年1月2日
リリイベとか2年くらい前満杯だったグループが最近厳しい状況見てると「タダでも『試しに見てみよう』て人て人は減ってるんだな」と。坂道・ベビメタというビッグバンは起きてるんだけど、現実「握手会が無くなる」てのが客が流れるタイミングだけに、やり続ける坂道・最初からないBMだと流れない。
— 大坪ケムタ (@kemta) 2017年1月2日
アイドルブームでグループ数は増えましたが、ではその分ファンも増えたのでしょうか? 実際のところ、たとえば「普段アイドル見ない人が、たまたま100人規模のアイドルライブを見て恋に落ちた」なんて事はまれです。最初はメジャーなアイドルから入り、それからいろんなグループを見るようになる。その「入り口」として大きかったのがAKB48・ももクロ、そしてBiS。そしてこれらのグループからアイドルを見始めた人が、「もうチケットが手に入らない」「握手できなくなった」「対バンで面白そうなの見つけたから」で他に流れていく。そして親鳥から離れた雛のように、いろんなグループを見てみようとあちこちのアイドルを見る層に、いわゆる「DD」化する。特に東京だったら無銭イベントやリリースイベントは毎日どこかでやってますから、DDもやりがいがある。これが地下アイドルファン増加の基本的構造だったと思います、2015年くらいまでは。
要は「メジャーアイドルから降りてくるファン」こそが地下アイドル新規を増やすビッグバン。しかしBiS以降そんな現象を起こすアイドルが皆無なのですね。その間におきたブレイクアイドルといえば乃木坂46やBABYMETALがいるわけですが、乃木坂は「ずっと握手できる」さらに「地下に似たものがない」のでファンが離れない。またBABYMETALは「最初から遠い存在だったから、ファンは今も昔も距離が気にならない」。だから不満をもって他の現場に行こう、とはならないわけです。
その結果どうなったかというと、AKBももクロBiSから地下に流れた3年目4年目のDDたちはいろいろ見てるうちに「終の棲家」ともいえるアイドルを見つけ、そこしか行かなくなった。長らくDDとして活動してきて資金が尽きたという現実的な理由もあるでしょう。それでいて、新規地下アイドルDDの流入がない。その結果として、この一年で印象的な現場の変化が「リリースイベントに来る客の減少」です。無料イベントなのに、客が確実に減っている。しかも1年前は新宿タワレコがパンパンだったグループが、当時の6割7割になってたりする。タダでも客が来ない、これはアイドルからすると「新規のファンを増やすぞ」というモチベーションがかなり削がれるはずです。リリイベでよく見る「わたしたちのこと初めて見た人~」→(おまいつが手を挙げる)の定番ムーブ、あれマジで新規がいない時にやられると心からのため息つきそうですね、考えてみると。
アイドル割れ窓理論
「割れ窓理論」というのをご存じでしょうか?
割れ窓理論とは次のような説である。
治安が悪化するまでには次のような経過をたどる。
1.建物の窓が壊れているのを放置すると、それが「誰も当該地域に対し関心を払っていない」というサインとなり、犯罪を起こしやすい環境を作り出す。
2.ゴミのポイ捨てなどの軽犯罪が起きるようになる。
3.住民のモラルが低下して、地域の振興、安全確保に協力しなくなる。それがさらに環境を悪化させる。
4.凶悪犯罪を含めた犯罪が多発するようになる。
割れ窓理論 - Wikipedia
別にサイリウム投げや警備員との揉め事といった「リアル治安低下」を嘆いてるわけじゃありません。この1,2年、ツイッターやまとめサイトの影響でアイドルに関するネガティブな話、いわば「割れ窓」がすごく目につくようになりました。
アイドルをやる女の子というのは、アイドルそのものが魅力的だから受けようと思うわけですが、それに加えて「アイドルが流行ってるから」オーディションを受けるという一面があると思います。特に2010~2015年くらいまでは「流行りもの」だった部分もありますから。ちなみにその前は「流行ってるからメイドを受ける子」がいっぱいいたようです。
ただアイドルのややこしいところは、「流行ってる」と思ってる女の子は本人だけで、その友達は「えーアイドルとかやってんの? 手がヌルヌルしてるおじさんと手つなぐんでしょ?」だったりします。もっと言えば世間は「Mステに出た子」じゃないと「本当のアイドル」として認めてくれません。小せえなあ、世間。
流行ってるはずだからアイドルになった子たちが、クラスメイトから「アイドルとかwww」とか言われつつもステージでも頑張る。しかしツイッターやまとめサイトを見ればアイドルの卒業や諸問題がイヤでも目につく。残念ながら良い話題より悪い話題の方が広がりがち、頭に残りがちなのは言うまでもない話。そんなスキャンダラスな所だけ見たアイドル興味ない人がまたさらに「アイドルとかwwww」となじる。それでアイドルやってる子のやる気が上がるかといえば、上がるわけがないです。
(ではまとめサイトが問題か、というとアイドルやアイドル運営に問題が起きなければまとめサイトは盛り上がらないわけで。それにアイドル以外のまとめサイト盛況を見れば「生まれるべくして生まれた」と思います。それに正直地下アイドルのまとめ見ると暗くなりがちだけど、乃木坂とか欅坂、BABYMETALのまとめ見てると逆にファンをアゲる効果もあるなと思いますからね)
ということで
2016年、アイドルのモチベーションが下がる理由をいろいろ考えてみました。ではこの解散卒業多数の2017年、アイドルに「限界」はきたのか? というとそれは感じないんですよね。だってこの坂道ブーム見てどこが終わったんだって話ですよ。たしかにDDは減って、地下アイドルも減ってはいるかもしれない。ただ、あのちゃんや橋本環奈さん、さらに断食となりましたが生ハムと焼うどんなんかを見てるとインディーズアイドルの可能性はまだあるのかなと思います。あとぱいぱいでか美さんとか。ただ、今までちょっと強めに吹いてた追い風が収まっちゃったかなと。「今流行ってるからアイドルやってこうか」みたいなのが淘汰されて、考えに考えてアイドルやってるところだけが足踏ん張ってやっていける。さっきリリイベで客減ってる、と書きましたけど各会場でCD完売させてるグループもありますからね。
それにアイドルのモチベーションが3年説、これが真実だとしても、それでもいいんじゃないかと思うんです。というか1年でもいい。そんな瞬間のマジックだから見れるものもいっぱいあるし。ただアイドルやる運営さんは真っ当な大人として頑張ってください、女の子たちに夢を見させて、出来る限り実現させてやってくださいとは思うし、そうなると「そりゃ大手が強いよな~」と思わざるを得ないけども。
それと解散・卒業が増えたからこそ生まれたもの…といっていいのかわかりませんが、最初のアイドルとしての人生を終えた後に別のアイドルグループを始めたり、既存グループに参加することが珍しくなくなりました。BELLRING少女ハート→THE夏の魔物の麻倉みずほやライムベリー→lyrical schoolのHIME、そして元GALETTeのメンバーなど「大物FA枠」とでもいうべきメンバーが目につきます。バンドが解散してギタリストが次のバンドを始めるような、そんな感覚です。アイドル=若い子、という定説がどんどん薄れていって、「20代のアイドル」がもっと確立されるようになれば面白い。アイドルブームは終わったかもしれないけど、そこで生まれて残った新しい時代のアイドル文化はいっぱいある。めんどいしんどいこともいろいろあるけども、それを上回る楽しいことがアイドルもファンも運営もあればよいですね。
ゆるめるモ!(You'll Melt More!)『めんどいしんどいPUNKするか』(Official Music Video)